限られた画面の中から情報を取りに行く。雑音の中から特定の声だけを聞きに行く。片耳はイヤホン、もう片耳で環境音を聞き分ける。マスクの着用により、耳は一方向に引っ張られ続けた。マスクで顔が見えないから、笑顔を作る必要も、口を大きく動かす必要もなくなった。
現代社会は、ここ10年で大きく形を変えた。スマホの長時間使用。パンデミック。AIの劇的進化。私たちの身体はまだこの時代に適応しきれぬまま、凄まじい変化の中で緊張を抱えながら生きている。
そしてまさに茹でガエルのように、日々の変化はグラデーションで訪れる。私たちは少しずつ錆びついていくレーダーに気づかず、歳を重ねていく。
パーソナルトレーナーとして活動していて、身体が整っている人たちに、ある共通点を見つけた。
「感覚を開く習慣を持つ人たち」
コーヒーの香りや味の違いを楽しむ人たち。神社仏閣に手を合わせに行く人たち。山や自然に身を置き、景色や自然音との調和を楽しむ人たち。音楽を演奏したり、音に合わせて踊る人たち。
その瞬間、大きな時間の流れの中に、今を感じている人たち。
感覚を開くということは、時間軸をリセットする作業でもある。
私たちは過去の記憶や、まだ起きていない未来の不安に向けて、すでに緊張している。今ではないどこかへ、意識が散らばっている。
でも今、目の前のコーヒーの香りに集中することで。手を合わせ、感謝に集中することで。不安定な山道で、足元の地形に集中することで。今まさに届いてくる音に心躍らせることで。
私たちは概念を手放し、過去や未来へ散らばった意識を、この瞬間に取り戻すことができる。
五感をリセットすることは、時間軸をリセットすることだ。
生活の、一つ一つが、セレモニー。
その気づきが生まれたとき、錆びついていたレーダーは、静かに目を覚ます。
次回は、そのレーダーが本来持っている力——ホメオスタシスと身体の自己回復について考えていきます。

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