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第十話「有り難い一杯から始まる旅」

最後に土を触ったのはいつですか?

最後に空を見上げたのはいつですか?

今日飲んだコーヒーが、どこから来たか感じていましたか?

同じコーヒーを飲んでいても、受け取るものは人によって全く違う。

ある人にとってそれはただの液体だ。目を覚ますための手段。

別の人にとっては——土地の香りがある。気候の記憶がある。作り手の時間がある。それを運んだ人の旅路がある。

本来ここにあるはずのないものが、時間と距離を超えて今この瞬間に届いている。

有り難い一杯だ。

山手線のホームに向かうエスカレーターの中、私たちの視野は狭く、呼吸は浅く、身体は緊張している。

でも山頂に立ったとき——視野が広がり、呼吸が深くなり、身体が開いていく。

同じ人間が、環境によってこれほど変わる。

自然界と人間界のバランス。

私たちは社会の中で役割を与えられ、その役割を守ろうとするとき、失う不安と守るための緊張が伴い続ける。

でも自然界に出たとき——土を触る、空を見上げる、雨の音を聴く——その瞬間、私たちは循環の一部として存在していることを思い出す。

替えのきかない存在として。存在するだけで祝福されている命として。

社会の中で役割を演じ続けるとき、私たちは少しずつ自分の感覚から離れていく。その距離が積み重なったとき、人は孤立していく——たとえ人に囲まれていても。

緊張が慢性化したとき、人は孤立していく。

みんなで安心し合える社会を作るには、まず自分の緊張をリセットすることが必要だ。

有り難い一杯から始まる旅は、思っているより遠くまで続いている。

その旅の入口は、日常の中に溢れている。

次回は、その緊張をリセットする身体本来の力について考えていきます。

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